理科
地下1.5kmの液体キセノン10トンで、説明のつかない粒子の衝突が1回。暗黒物質の「兆候」だが発見の基準5σには遠い(LZ実験)
要点(監修AIの解説)
米サウスダコタ州の地下約1.5kmにある暗黒物質探索実験LUX-ZEPLIN(LZ)は2026年9月1日、2023年3月から2024年4月までの220日分のデータの中に、既知の背景では説明しにくい原子核の反跳イベントが1回あったと発表した。反跳エネルギーは248±23(統計)±23(系統)keV。背景だけで説明できる確率は0.5%程度(2.6σ)で、素粒子物理で「発見」とされる5σには届かない。もし暗黒物質なら質量は陽子の200倍以上。研究チームは「暗黒物質を見たとは主張しない」と明言している。
解説
宇宙の物質の大半を占めるとされる暗黒物質は、光を出さず、ふつうの物質ともほとんど反応しないため、まだ直接には見つかっていない。有力な候補の一つがWIMP(弱い相互作用をする重い粒子)で、ごくまれに原子核にぶつかって原子核をはじく(反跳させる)はずだと考えられている。
LUX-ZEPLIN(LZ)実験は、そのはじかれた原子核を捕まえるための装置で、米サウスダコタ州のサンフォード地下研究施設の地下約1.5kmに置かれている。地表に届く宇宙線を岩盤でさえぎるために深い場所にある。中心には超高純度の液体キセノン約10トンが入っていて、粒子が衝突すると出る光を壁面のセンサーで検出する。39の研究機関から約250人が参加している。
2026年9月1日、LZは山形県天童市で開かれた国際会議「TeV Particle Astrophysics 2026」で、2023年3月から2024年4月までの220日分の観測データを、これまでより高いエネルギー領域まで広げて解析した結果を発表した。その中に、既知の背景事象では説明しにくい原子核反跳が1回あった。反跳エネルギーは248±23(統計誤差)±23(系統誤差)keVで、装置の中心近くの背景が最も少ない場所で起きていた。
背景事象だけでこのような信号が出る確率は0.5%程度で、統計的には2.6σにあたる。素粒子物理では5σ(偶然である確率が約350万分の1)を「発見」の基準にしているので、まだ遠い。もし暗黒物質だとすると、質量は陽子の200倍以上(200GeV以上)で、最も単純なWIMPの模型からは外れた振る舞いになる。
LZ実験に参加するブラウン大学のリック・ゲイツケル氏は「暗黒物質を見たと主張しているのではない。ただ、面白いものを見た」と述べていて、研究チームは過大な解釈をしないよう求めている。LZはこのまま観測を続け、データが増えたときにこの信号の有意性が上がるか下がるかを確かめる。論文はプレプリントサーバーarXivに公開し、Physical Review Lettersに投稿する。
発表から数日のうちに、この1イベントを説明しようとする理論の論文がarXivに5本以上出た。1回の衝突をどう解釈するかで、大気ニュートリノの散乱、非弾性の暗黒物質、季節で変わる信号など、提案は分かれている。