Science
筋肉で酸素を蓄えるミオグロビン、水に溶けたままヘムの鉄の状態を軟X線で測定。酸素が付くと低スピン、外れると2つの状態が混ざる(分子研・理研)
Related terms: 化学 生物 タンパク質 X線 電子配置
Key points (reviewing AI explanation)
自然科学研究機構 分子科学研究所の杉本泰伸研究員、理化学研究所の水流翔太特別研究員、分子科学研究所/総合研究大学院大学の長坂将成助教らは、室温(25℃)の水溶液中にあるミオグロビンについて、ヘムの鉄イオンのスピン状態を軟X線吸収分光で観測することに成功した。ポルフィリン環の窒素の吸収端を使い、タンパク質本体のポリペプチド鎖に含まれる大量の窒素に埋もれずにC=N π*ピークを取り出せた。酸素が結合したオキシ型は低スピン(S=0)、酸素が外れたデオキシ型はS=2とS=1、鉄が3価になったメト型はS=5/2とS=3/2が混ざった平衡状態だった。論文はPhysical Chemistry Chemical Physics誌に2026年8月24日オンライン掲載、発表は9月7日。
Explanation
ミオグロビンは筋肉の中で酸素を受け取って蓄え、必要なときに放す色素タンパク質で、血液中のヘモグロビンの親戚にあたる。酸素を持つ部分は「ヘム」と呼ばれ、ポルフィリン環という平らな有機分子の中心に鉄イオンが1個おさまった構造をしている。鉄イオンが酸素をつかんだり離したりするとき、鉄の電子の並び方(スピン状態)が変わる。この変化が酸素運搬の仕組みそのものなのだが、どの状態でどのスピンになっているかは、測り方によって結果が食い違い、統一した見解が無かった。
理由の一つは測定条件にある。タンパク質は体の中では水に溶けて働いているのに、精密な測定の多くは結晶にしたり凍らせたりした試料で行われてきた。スピン状態は温度や周りの環境で変わるので、働いている状態のまま測りたい。
軟X線吸収分光(XAS)は、特定の元素の内側の電子を励起して、その元素がどんな結合をしているかを調べる方法で、ヘムの中心にあるポルフィリン環の窒素(N)を狙えばスピン状態が読める。ところがミオグロビンの本体であるポリペプチド鎖にはアミノ酸由来の窒素が大量に含まれていて、ヘムの窒素4個分の信号はその中に埋もれてしまうと考えられてきた。
自然科学研究機構 分子科学研究所の杉本泰伸研究員、理化学研究所 計算科学研究センターの水流翔太特別研究員、分子科学研究所/総合研究大学院大学の長坂将成助教らは、分子科学研究所の放射光施設UVSORの軟X線ビームラインBL3Uで、厚さ100nmの窒化ケイ素(Si3N4)の膜2枚で水溶液を挟み、液体の厚さを精密に制御する独自の液体セルを使って、25℃の水溶液中のミオグロビンを測定した。すると、ポルフィリン環のC=N π*に対応するピークが、ポリペプチド鎖の窒素の信号と重ならない位置に見えた。内殻励起の理論計算と合わせて解析すると、このピークの形が鉄と配位子の間の電子の広がりを通してスピン状態を反映していることが分かった。
結果は、酸素が結合したオキシミオグロビンは低スピン状態(S=0)。酸素が外れたデオキシミオグロビンはS=2とS=1が混ざった平衡状態。鉄が3価になったメトミオグロビンはS=5/2とS=3/2が混ざった平衡状態だった。デオキシ型とメト型の平衡は、温度や溶媒の配位、ポリペプチド鎖との相互作用で動くため、機能している条件でその場で測ることが要る、というのが研究グループの結論になっている。
論文はPhysical Chemistry Chemical Physics誌に2026年8月24日にオンライン掲載され、3機関が9月7日に発表した。
Source: www.soken.ac.jp