ワクチンと血清療法
免疫の仕組みを医学に応用したのが予防接種(ワクチン)と血清療法です。新型コロナのmRNAワクチンも含めて、原理を学びましょう。
基本知識
予防接種(ワクチン)は、病原性を弱めたり失わせたりした抗原(ワクチン)をあらかじめ体に投与し、記憶細胞を作っておく方法です。本物の病原体が侵入したときに二次応答で素早く対処できます。
ワクチンの種類:
① 生ワクチン(弱毒化した病原体: 麻疹・風疹・BCG・水痘)
② 不活化ワクチン(殺した病原体: インフルエンザ・日本脳炎)
③ トキソイド(無毒化した毒素: 破傷風・ジフテリア)
④ mRNAワクチン(病原体のタンパク質を作る遺伝情報を投与: 新型コロナ用に実用化)
⑤ ウイルスベクターワクチン(無害なウイルスに目的遺伝子を載せる)
血清療法はウマなどの動物に毒素や病原体を注射して抗体を作らせ、その血清(抗体を含む液)を患者に注射する治療法です。北里柴三郎とベーリングが1890年代に確立しました。
予防接種(病原体に対する免疫を事前につけるためにワクチンを投与すること)
生ワクチン(弱毒化した病原体。長期免疫が得やすい)
不活化ワクチン(病原性を失わせた病原体。安全性が高い)
トキソイド(無毒化した毒素を抗原として用いるワクチン)
mRNAワクチン(抗原タンパク質を作るmRNAを投与する新世代ワクチン)
血清療法(他の動物の抗体を含む血清を注射し直接治療する方法)
集団免疫(多くの人が免疫をもつことで感染拡大を防ぐ効果)
深掘り
mRNAワクチンは2020年代に新型コロナウイルス(COVID-19)対策として初めて実用化された画期的な技術です。従来のワクチンと異なり、ウイルスのスパイクタンパク質を作るmRNAを脂質ナノ粒子(LNP)に包んで投与し、自分の細胞内でmRNAから抗原が翻訳され、それを免疫が認識する仕組みです。開発期間が短く変異株への対応も柔軟なのが利点で、開発者のカタリン・カリコらは2023年にノーベル医学・生理学賞を受賞しました。
ワクチンと血清療法の本質的な違い: ワクチンは能動免疫(自分で抗体を作る・記憶ができる・予防用・効果は長期)、血清療法は受動免疫(他者の抗体をもらう・記憶できない・治療用・効果は短期)。集団免疫はワクチン接種率が一定以上になると、未接種者も感染しにくくなる効果で、はしか(麻疹)では約95%、COVID-19では病原性により可変です。
- ワクチン=記憶細胞を作って予防する(能動免疫)
- 血清療法=抗体そのものを注射(受動免疫)
- 生ワクチン・不活化ワクチン・トキソイドの3古典
- mRNAワクチン=自分の細胞で抗原を作る新世代
- 北里柴三郎・ベーリング=血清療法の確立
- 集団免疫=接種率を上げて感染抑制
- 能動免疫は長期持続、受動免疫は短期
注意点
① ワクチン(予防)と血清療法(治療)は目的が逆。② 能動免疫(自分で作る)と受動免疫(他者の抗体)。母から胎児へ胎盤を通じてもらう抗体も受動免疫。③ 生ワクチンは免疫力低下時には危険な場合がある。④ mRNAワクチンはmRNAを投与するが、mRNAは細胞内で数日以内に分解され、ヒトの遺伝子(DNA)には組み込まれない。
練習
- 新型コロナワクチンで実用化された、抗原タンパク質をコードする核酸を投与するワクチンを何というか。
- 血清療法を確立した日本人医学者は誰か。
- ワクチン接種は能動免疫・受動免疫のどちらに分類されるか。