DNAの発見と構造 二重らせんの化学
遺伝情報を担う物質DNA(デオキシリボ核酸)。その構造を発見した瞬間から分子生物学が始まりました。化学構造を正確に理解することが鍵です。
基本知識
DNAの構成単位はヌクレオチドです。1つのヌクレオチドは:
① 糖: デオキシリボース(炭素5個の五炭糖)
② リン酸(リン酸基1個)
③ 塩基: 4種類のうちの1つ — アデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)
からなります。DNAはこのヌクレオチドが多数結合した長い鎖です。
DNAは2本の鎖が二重らせんを作り、塩基どうしが鎖の内側で水素結合します。塩基対の組み合わせは厳密に決まっており、A-T(2本の水素結合)、G-C(3本の水素結合)です。これをシャルガフの規則(A=T、G=C)、相補性と呼びます。
1953年、ワトソンとクリックがDNAの二重らせん構造を発表し、ノーベル賞を受賞しました。これに先立つロザリンド・フランクリンのX線回折写真(Photo 51)が決定的な手がかりとなりました。
DNA(デオキシリボ核酸。遺伝情報の本体)
ヌクレオチド(DNAの構成単位。糖+リン酸+塩基)
デオキシリボース(DNAを構成する五炭糖。リボースから酸素1つ少ない)
塩基(A・T・G・C)(プリン塩基=A・G、ピリミジン塩基=T・C)
相補性(A-T、G-Cの対を成す性質。シャルガフの規則)
二重らせん(DNAの2本鎖がねじれて作るらせん構造)
ワトソンとクリック(1953年に二重らせん構造を解明)
深掘り
DNAの化学的な美しさは、相補性と二重らせん構造に集約されます。A-T塩基対は水素結合が2本、G-C塩基対は水素結合が3本で、後者の方がやや強固です。G-C含量の多いDNAほど熱変性(融解)温度が高いという物性も、ここから導かれます。
糖とリン酸が交互につながった「糖-リン酸骨格」はDNAの外側を作り、塩基どうしは内側で水素結合し、らせんの内部にきれいに収まります。塩基間の疎水性スタッキング(芳香環の積み重なり)も二重らせんを安定化させる重要な化学的要因です。
2本鎖は逆向き(antiparallel)に走っており、片方が5'→3'方向なら、もう片方は3'→5'方向です。これは複製や転写の方向性を理解する上で必須の知識です。化学的には、ヌクレオチドのリン酸は5'炭素に、次のヌクレオチドの糖は3'炭素に結合し(5'-3'ホスホジエステル結合)、これにより一方向性が生まれます。
シャルガフの規則(1950)は、DNA抽出物中のA量とT量、G量とC量がほぼ等しいという経験則でしたが、二重らせん構造の発見でその化学的意味が明らかになりました。「化学=構造から機能」がそのまま機能(複製の鋳型としての相補性)を予言した、見事な歴史的事例です。
- DNAヌクレオチド=糖(デオキシリボース)+リン酸+塩基
- 塩基4種=A・T・G・C
- 相補性=A-T(2水素結合)・G-C(3水素結合)
- シャルガフの規則=A=T、G=C
- 1953年ワトソンとクリック=二重らせん発見
- 2本鎖は逆向き(antiparallel)
- 糖-リン酸骨格が外側、塩基が内側
注意点
① プリン塩基(A・G、二環構造)とピリミジン塩基(T・C・U、一環構造)を区別。プリンが大きく、ピリミジンが小さい。② A-Tは水素結合2本、G-Cは水素結合3本。混同しない。③ DNAはデオキシリボース、RNAはリボース。2'炭素にOHがあるかないかの違い。④ シャルガフの規則はA=T、G=C(等しい)であって、A+T=G+Cではない。
練習
- DNAを構成する塩基4種類をアルファベットですべて答えなさい。
- DNA二重らせん構造を1953年に発表した2人の科学者は誰か。
- DNAの塩基対のうち、水素結合が3本で結ばれる組み合わせを答えなさい。