血糖調節と糖尿病
血液中のグルコース濃度=血糖値を一定に保つ仕組みは、ホメオスタシスの代表例です。乱れると糖尿病になります。
基本知識
正常な血糖値は空腹時で約70〜100 mg/dLです。食事後は一時的に上がりますが、調節機構ですぐ戻ります。
血糖値が上がったとき(食後など):
① 視床下部が感知→副交感神経経由で膵臓ランゲルハンス島のB細胞を刺激
② インスリン分泌
③ インスリンが各組織の細胞に作用し、グルコースを取り込ませる(筋肉・脂肪)、肝臓でグリコーゲン合成、脂肪合成促進
④ 結果、血糖値が下がる
血糖値が下がったとき(空腹時・運動時など):
① 視床下部が感知→交感神経経由で膵臓A細胞・副腎髄質を刺激
② 膵臓A細胞からグルカゴン、副腎髄質からアドレナリン分泌
③ 肝臓でグリコーゲンを分解してグルコースを血中に放出
④ さらに長時間続けば副腎皮質から糖質コルチコイドが分泌され、タンパク質からの糖新生を促進
⑤ 結果、血糖値が上がる
つまり血糖を下げるホルモンはインスリンただ1つ、上げるホルモンはグルカゴン・アドレナリン・糖質コルチコイドと複数あります。これは「血糖が下がりすぎると脳の機能が止まる(脳はグルコースが主要燃料)」ため、上げる仕組みを多重化したと考えられます。
血糖値(血液中のグルコース濃度。正常空腹時70〜100 mg/dL)
ランゲルハンス島(膵臓内の内分泌組織。A細胞・B細胞)
B細胞(インスリン分泌・血糖↓)
A細胞(グルカゴン分泌・血糖↑)
グリコーゲン(肝臓・筋肉に貯蔵されるグルコースの貯蔵形)
糖新生(アミノ酸・脂肪などからグルコースを作る経路)
糖尿病(血糖値が慢性的に高い状態。I型とII型)
深掘り
インスリンはアミノ酸51個からなる小さなペプチドホルモンで、A鎖(21残基)とB鎖(30残基)がジスルフィド結合(S-S結合)でつながった構造をしています。膵臓B細胞では最初プロインスリンとして作られ、C-ペプチドが切り取られて成熟型インスリンになります。1921年にバンティングとベストがイヌの膵臓から抽出単離し糖尿病治療薬として実用化した歴史的偉業で、翌1923年にノーベル賞を受賞しました。
インスリンが細胞膜のインスリン受容体(チロシンキナーゼ型受容体)に結合すると、細胞内のシグナル経路が活性化され、グルコース輸送体GLUT4が細胞膜に移動してグルコースを細胞内へ取り込みます。この経路の異常がII型糖尿病(インスリン抵抗性)の本態です。
糖尿病の2タイプ:
・I型糖尿病: 自己免疫により膵臓B細胞が破壊され、インスリンが作れない。発症は若年が多い。インスリン注射が必須。
・II型糖尿病: 生活習慣(肥満・運動不足)とインスリン抵抗性が原因。日本人の糖尿病の95%以上がこちら。食事・運動療法に加え、メトホルミン・SGLT2阻害薬・GLP-1作動薬などが用いられる。
糖尿病の合併症は深刻で、三大合併症=糖尿病性網膜症(失明原因)・腎症(透析原因)・神経障害があり、心筋梗塞・脳梗塞のリスクも上げます。日本では糖尿病患者は1000万人を超え、生活習慣病の代表として重要です。
近年はGLP-1作動薬(セマグルチドなど)が糖尿病治療と肥満治療の両面で注目されています。GLP-1は腸から分泌されるホルモン(インクレチン)の一つで、インスリン分泌を促進し食欲を抑える働きがあります。化学合成された長時間作用型GLP-1作動薬は、医薬市場でも大きな注目を集めています。
- 血糖正常値=空腹時70〜100 mg/dL
- 血糖を下げるのはインスリンのみ
- 血糖を上げる=グルカゴン・アドレナリン・糖質コルチコイド
- 血糖↑センサー=副交感神経→B細胞→インスリン
- 血糖↓センサー=交感神経→A細胞・副腎→グルカゴン・アドレナリン
- I型=自己免疫・若年・インスリン注射必須
- II型=生活習慣・成人・大多数の糖尿病
- 三大合併症=網膜症・腎症・神経障害
注意点
① インスリン(下げる)・グルカゴン(上げる)を混同しない。同じ膵臓ランゲルハンス島だが、B細胞=インスリン、A細胞=グルカゴンと細胞も違う。② I型糖尿病(自己免疫・インスリン枯渇・若年)とII型糖尿病(生活習慣・インスリン抵抗性・中高年)は原因も治療も別物。③ 糖新生はアミノ酸や乳酸など糖以外からグルコースを作る経路。肝臓で起こる。④ 血糖を上げるホルモンは複数あるが、下げるホルモンはインスリン1つだけ。これが「インスリンが効かない=糖尿病」になる理由でもある。
練習
- 膵臓ランゲルハンス島のB細胞から分泌されるホルモンは何か。
- 血糖を上昇させるホルモンを3つ挙げなさい。
- 糖尿病のうち、自己免疫で膵臓B細胞が破壊されて発症するタイプを何と呼ぶか。