グリーンケミストリーと持続可能性
21世紀の化学産業は環境負荷を最小化する化学=グリーンケミストリーへとシフトしています。2050年カーボンニュートラル実現の主役の一つです。
基本知識
グリーンケミストリーの12原則(Anastas & Warner, 1998):
① 廃棄物の防止(処理より発生抑制)
② 原子効率最大化(原料原子を生成物に最大限取り込む)
③ 有害物質の使用回避
④ 安全な化学品の設計(機能を維持しつつ毒性低減)
⑤ 溶媒・助剤の削減(または水/超臨界CO2等の安全な代替)
⑥ エネルギー効率(常温常圧反応を優先)
⑦ 再生可能原料(化石資源より生物資源)
⑧ 誘導体化の削減(保護基・脱保護の最小化)
⑨ 触媒の優先(量論反応より触媒反応)
⑩ 分解性の設計(使用後に環境負荷なく分解)
⑪ リアルタイム分析(汚染前モニタリング)
⑫ 事故防止のための本質安全(危険物質を扱わない設計)
環境問題と化学の責任:
・地球温暖化: CO2(化石燃料)、CH4(畜産・水田)、N2O(肥料)、フロン類が温室効果ガス
・オゾン層破壊: フロン(CFC)→モントリオール議定書で全廃→代替フロン(HFC)→さらに代替(HFO)へ
・酸性雨: SOx, NOxから硫酸・硝酸
・富栄養化: N, P排出で水域の藻類異常繁殖、赤潮
・海洋プラスチック: マイクロプラスチック汚染
・POPs(残留性有機汚染物質): DDT, PCB, ダイオキシン、ストックホルム条約
・水銀汚染: 水俣条約で世界的に削減
カーボンニュートラル戦略:
・再生可能エネルギー化(太陽光・風力・水力)
・グリーン水素(再エネ電解水素)で化学産業の脱炭素
・CO2回収・利用・貯留(CCUS): MOF/アミン吸収剤での回収、CO2を原料化(メタノール・尿素等)
・サーキュラーエコノミー: 廃棄物ゼロを目指す循環設計
グリーンケミストリー(12原則、Anastas & Warner 1998)
原子効率(Atom Economy)(=生成物質量/全反応物質量×100)
E-factor(廃棄物kg/生成物kg、低いほど良い)
カーボンニュートラル(CO2排出ゼロ、2050年目標)
CCUS(CO2回収・利用・貯留、Carbon Capture Utilization & Storage)
ストックホルム条約/モントリオール議定書(POPs/フロン規制)
深掘り (原理・応用)
原子効率の例: ベンゼン+CH2=CHCH3→クメン→フェノール+アセトン(クメン法)。フェノールだけでなくアセトンも有用副生物→原子効率100%に近い理想的プロセス。
対照例: フリーデル・クラフツ反応はAlCl3を化学量論的に使い、副生Al塩を大量に廃棄。新世代の固体酸触媒(ゼオライト等)による代替が進行中。
E-factor: バルク化学品 1〜5、ファインケミカル 5〜50、医薬品 25〜100以上。製薬業界が最も廃棄物比率が高く、改善余地大。
CO2を原料に: 尿素合成(CO2+2NH3→CO(NH2)2+H2O)は古くからのCO2利用反応。新たに、CO2→メタノール(CO2 + 3H2 → CH3OH + H2O)、CO2→ポリカーボネート(ポリプロピレンカーボネート)、CO2→エチレンなど、合成燃料・合成プラスチックの研究が国際的に加速。
SDGs目標: 7(エネルギー)、9(産業基盤)、12(つくる責任)、13(気候変動)、14(海洋)が直接化学に関連。化学産業の責任と機会が同居する時代。
- グリーンケミ12原則=21世紀化学の指針
- 原子効率=生成物質量/反応物全質量
- E-factor=廃棄物/生成物、医薬品で大
- カーボンニュートラル2050が世界目標
- CO2を原料化する技術が拡大中
- POPs/フロン/水銀は国際条約で規制
- サーキュラーエコノミーで廃棄物ゼロへ
注意点 (混同しやすい・頻出ミス)
① 収率と原子効率は別概念: 収率は「目的物の生成量÷理論最大量」、原子効率は「目的物質量÷全反応物質量」。収率100%でも副生物が多ければ原子効率は低い。② カーボンニュートラル≠CO2排出ゼロ(排出と吸収の差し引きでゼロ)。植林・CCSも組み合わせる。③ バイオプラスチックすべてが生分解性ではない: バイオベース(植物由来)と生分解性は独立した概念。バイオPETは植物由来だが生分解しない。④ フロンの規制は1987年モントリオール議定書で全廃決定、HFCs(代替フロン)も2016年キガリ改正で削減。
練習
- グリーンケミストリーの12原則のうち、5つを挙げて簡潔に説明せよ。
- クメン法によるフェノール製造が原子効率上優れる理由を述べよ。
- カーボンニュートラル実現のために化学が果たすべき3つの役割を述べよ。