酵素のはたらきと活性化エネルギー
生体内の化学反応は、常温・中性付近という穏やかな条件下で驚くほど速く進みます。これを可能にしているのが酵素です。酵素は反応に必要な活性化エネルギーを下げることで反応速度を飛躍的に高める生体触媒です。
基本知識
酵素の化学的実体: ほとんどの酵素はタンパク質です(一部はRNA=リボザイム)。触媒として機能するため、反応前後で自身は変化しません。
活性化エネルギーと酵素: 化学反応が進むためには基質分子が「遷移状態」を超える必要があり、そのために必要なエネルギーが活性化エネルギーです。酵素は基質と結合して遷移状態を安定化させ、活性化エネルギーを低下させます。反応の自由エネルギー変化(ΔG)は変えません。
活性部位と基質特異性: 酵素の活性部位(active site)に特定の基質だけが結合できます。これを基質特異性といいます。鍵と鍵穴モデル(フィッシャー)および誘導適合モデル(コシュランド)があり、現在は誘導適合モデルが主流です。
酵素反応の速度と阻害: 基質濃度が低いうちは反応速度は基質濃度に比例しますが、高くなると酵素が飽和して最大反応速度(Vmax)に漸近します。競争的阻害(阻害剤が活性部位を占拠・基質濃度↑で回復)と非競争的阻害(活性部位以外に結合・Vmaxが低下)があります。
酵素活性に影響する因子: 温度(最適温度を超えると変性して失活)・pH(最適pHで最大活性、ペプシン約pH2、アミラーゼ約pH7、トリプシン約pH8)・補酵素(NAD⁺、FAD等のビタミン由来の非タンパク質成分)。
酵素が活性化エネルギーを低下させることで反応を促進するが、反応全体の自由エネルギー変化(ΔG)は変化しない。この理由を説明しなさい。
解答: 活性化エネルギーは反応が進むための「障壁」であり、反応の出発点と終点のエネルギー差(ΔG)とは別の概念である。酵素は基質との結合により遷移状態を安定化して障壁を低くするが、反応物と生成物のエネルギー差そのものは変えないため、ΔGは変わらない。
- 酵素=タンパク質(一部はRNA)の生体触媒
- 活性化エネルギーを下げる→反応速度↑(ΔGは不変)
- 活性部位=基質のみが結合する立体構造
- 基質特異性=鍵と鍵穴・誘導適合モデル
- 競争的阻害=基質↑で回復、非競争的阻害=Vmax低下
- 最適温度超えると変性・失活(不可逆)
- 補酵素(NAD⁺・FAD等)=ビタミン由来の非タンパク部分
注意点
① 酵素は反応前後で変化しないが、高温・強酸・強アルカリで変性すると活性を永久に失う。② 競争的阻害と非競争的阻害の違いは「基質濃度を上げると回復するか否か」で判断する。③ リボザイムはRNA触媒でタンパク質ではないが、同様に活性化エネルギーを下げる機能をもつ。
練習
- 酵素が「基質特異性」を示す理由を、活性部位の構造的観点から説明しなさい。
- 競争的阻害と非競争的阻害の違いを、基質濃度を上げたときの反応速度の変化から比較しなさい。
- ペプシンの最適pHはおよそいくつか。また最適pHが消化管の部位によって異なる理由を述べなさい。