植物の環境ストレス応答
植物は移動できない生物として、乾燥・低温・病害・機械的損傷などのさまざまな環境ストレスに対して精密な応答機構を進化させてきました。
基本知識
乾燥ストレス応答: ①ABA(アブシジン酸)が葉の孔辺細胞に作用→K⁺・Cl⁻の流出→細胞の浸透圧低下→水が流出→気孔閉鎖。②細胞内でオスモチン・プロリン等の適合溶質が蓄積→浸透調整。③脱水ストレスタンパク(LEA タンパク等)が細胞を保護。
低温ストレス(寒冷馴化): ①不飽和脂肪酸増加→膜の流動性維持(膜の硬化防止)。②不凍タンパク・氷核タンパク。③アントシアンや糖類の蓄積→凍結点降下・抗酸化。
病害・食草抵抗性: ①サリチル酸(SA)=病原体感染で蓄積→全身獲得抵抗性(SAR)誘導・PR(病害関連)タンパク質合成。②ジャスモン酸(JA)=機械的損傷・昆虫食害で増加→プロテアーゼ阻害タンパク・毒素合成→昆虫の消化酵素阻害。③揮発性有機物質(VOC)=傷害植物から放出され隣接植物が「警報」を受け取り抵抗性を事前強化。
光酸化ストレスと活性酸素(ROS): 強光・UV等でROS(H₂O₂・OH·・O₂⁻)が過剰産生→脂質過酸化・タンパク変性・DNA損傷。防御: SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)・カタラーゼ・アスコルビン酸・トコフェロール等の抗酸化機構。
植物免疫(PTI・ETI): ①PAMP誘発免疫(PTI): パターン認識受容体が病原体由来成分(PAMP)を認識→防御応答。②エフェクター誘発免疫(ETI): R遺伝子産物が病原体エフェクターを認識→過敏感細胞死(HR)で感染拡大阻止。
植物が全身獲得抵抗性(SAR)を示すしくみを、サリチル酸の役割を含めて説明しなさい。
解答: 病原体に感染した局所の葉でサリチル酸(SA)が産生・蓄積する。SAは師管を通じて全身に輸送(または前駆体MeSAが気体として伝播)され、未感染の葉でも防御遺伝子(PR遺伝子等)の転写を誘導する。これにより全身の葉が病原体に対して抵抗性を獲得する現象をSARという。ワクチン接種に似た植物の「免疫記憶」と言える。
- 乾燥→ABA→気孔閉鎖(孔辺細胞のK⁺流出)
- 寒冷馴化=不飽和脂肪酸増・糖蓄積・抗凍タンパク
- サリチル酸=病原体抵抗・全身獲得抵抗性(SAR)
- ジャスモン酸=昆虫食害応答・プロテアーゼ阻害誘導
- VOC=揮発性物質で隣接植物への警報
- ROS消去=SOD・カタラーゼ・アスコルビン酸
- 過敏感細胞死(HR)=病原体感染細胞が自死して拡大阻止
注意点
① ABAは乾燥ストレスの主要なシグナル分子で、気孔閉鎖は光合成のためのCO₂取り込みも制限するため、水利用効率とのトレードオフがある。② 全身獲得抵抗性(SAR)は誘導性防御であり、初回感染後に全身が強化されるという点で動物の自然免疫の「プライミング」に類似。③ ジャスモン酸とサリチル酸のシグナルは拮抗的に働くことがあり、植物は病原体の種類に応じてシグナルを切り替える。
練習
- 乾燥ストレス時にABAが孔辺細胞に作用して気孔を閉じるメカニズムを、イオンの移動と浸透圧の変化から説明しなさい。
- 植物が昆虫の食害を受けたときに合成するジャスモン酸の防御作用を説明しなさい。
- 植物の活性酸素(ROS)消去機構において主に働く酵素を2種類答えなさい。