問題解決の手法
「情報I」で学ぶのは知識だけではありません。情報と情報技術を活用して、身の回りや社会の問題を解決する力が最大の目標です。この講義では、問題解決のプロセスと、アイデアを生み出し整理するための代表的な手法を学びます。
「問題」とは何か
問題解決における問題とは、単なる「困りごと」ではなく、「理想(あるべき姿)と現実のギャップ」と定義されます。例えば「テストで80点を取りたい(理想)が、現状は60点(現実)」なら、その20点の差が問題です。この定義の利点は、理想を明確にすることで、解決すべきことがはっきりする点にあります。問題解決は一般に、①問題の明確化(理想と現実を言語化する)、②情報の収集・分析(原因を探る)、③解決策の立案(複数の案を出し比較する)、④実行、⑤評価・改善という一連のプロセスで進めます。このサイクルを回し続ける考え方はPDCAサイクル(Plan計画→Do実行→Check評価→Action改善)としても知られています。
アイデアを広げる — ブレーンストーミング
解決策の立案では、まず量を出すことが重要です。ブレーンストーミングは集団でアイデアを出し合う手法で、4つの原則があります。①批判禁止(他人の案を否定しない)、②自由奔放(突飛な案を歓迎する)、③質より量(とにかく数を出す)、④結合・便乗(他人の案に乗っかり発展させる)。批判を禁じるのは、評価を恐れて発言が減ることを防ぐためです。
アイデアを整理する — KJ法など
出したアイデアを整理する代表的手法がKJ法です(文化人類学者・川喜田二郎の考案)。アイデアを1枚1件でカードに書き出し、内容の近いカードをグループにまとめて見出しを付け、グループ間の関係を図解して構造を見いだします。原因を体系的に探るには、結果に対する原因を魚の骨の形に整理する特性要因図(フィッシュボーン図)、思考を放射状に広げるマインドマップなども有効です。また、解決策を比較する際には、何かを得ると別の何かを失うトレードオフの関係(例:品質を上げるとコストが増える)を意識し、評価の観点(費用・効果・実現可能性など)を決めて表で比較すると、根拠のある意思決定ができます。
データと情報技術の活用
問題解決の質を高めるのは、勘ではなくデータです。アンケートの集計、公開統計の参照、グラフによる可視化などを通じて、原因の分析や解決策の評価を客観的に行えます。また、近年は生成AIをブレーンストーミングの壁打ち相手として使うなど、情報技術そのものを問題解決の道具にする場面も増えています。ただし、AIの出力は誤りを含みうるため、根拠を確認し最終判断は人間が行うという姿勢が不可欠です。
- 問題=理想と現実のギャップ。まず理想を明確にする。
- 問題解決プロセス:明確化→収集・分析→立案→実行→評価・改善(PDCA)。
- ブレーンストーミング4原則:批判禁止・自由奔放・質より量・結合便乗。
- KJ法はカード化→グループ化→図解で情報を構造化する手法。
- 解決策の比較ではトレードオフを意識し、評価の観点を決めて表で比べる。
- データに基づく分析と評価が問題解決の説得力を生む。
練習問題
- 問題解決における「問題」の定義を述べ、「朝、学校に遅刻しがち」という状況を理想と現実の形で表現しなさい。
- ブレーンストーミングの4原則を挙げ、そのうち「批判禁止」が定められている理由を説明しなさい。
- KJ法の手順を3ステップで説明しなさい。
- 「文化祭の模擬店で、豪華なメニューにするか、提供の速さを優先するか」という選択にひそむトレードオフを説明し、どう意思決定すべきか述べなさい。
解答・解説
- 解答:問題とは「理想(あるべき姿)と現実のギャップ」のこと。例:理想=始業10分前に教室に着いている、現実=週2回ほど始業後に到着する。このギャップが解決すべき問題である。
解説:理想と現実をそれぞれ具体的に(できれば数値で)書けているかがポイント。理想を定めないと解決の目標が定まらない。 - 解答:4原則は①批判禁止、②自由奔放、③質より量、④結合・便乗。批判禁止の理由は、批判されると参加者が評価を恐れて発言をためらい、自由な発想やアイデアの量が失われてしまうから。
解説:ブレストの目的は「アイデアの量産」。評価・選別は後の工程で行う、という工程分離の考え方が本質。 - 解答:①アイデアや情報を1枚につき1件ずつカードに書き出す。②内容の近いカードを集めてグループを作り、各グループに見出しを付ける。③グループ同士の関係を線や配置で図解し、全体の構造や本質を読み取る。
解説:「カード化→グループ化→図解化」の3段階。グループ化は先入観の分類ではなく、カードの内容から自然なまとまりを見つけるのが本来のKJ法。 - 解答:豪華なメニューは満足度を高めるが調理に時間がかかり、提供速度や回転率が下がる(売上機会の損失)。速さを優先すればより多くの客に提供できるが、1食あたりの魅力や単価は下がる。両立は難しいトレードオフの関係にある。意思決定は、目的(売上最大か満足度か)を明確にし、価格・提供時間・想定客数などの観点で複数案を比較して選ぶべきである。
解説:「一方を立てると他方が犠牲になる」構造を具体的に指摘できているか、そして「目的と評価基準を決めて比較する」という手続きに言及できているかが採点の中心。