ここ数年、半導体に関するニュースを目にする機会がぐっと増えた気がする。「半導体不足で車が作れない」とか「NVIDIAの株価が急騰」とか「TSMCを日本に誘致」とか。なんとなく重要な話だというのはわかるんだけど、いまいち自分ごととして理解できていなかったので、ちょっとちゃんと調べてみることにした。調べてみると、いろんなことが繋がっていて面白かったので、わかってきた範囲でまとめてみたいと思う。
半導体ってそもそも何なのか
まず基本のところから整理してみると、半導体とは電気を通す「導体」と通さない「絶縁体」の中間の性質を持つ物質のことで、代表的なのはシリコン(砂から取れる)。この「条件次第で電気を通したり通さなかったりする」性質が、スイッチとして使える。このスイッチを極限まで小さくして、極限まで多数を一枚のシリコンに詰め込んだのが集積回路(IC)で、その進化形がCPUやGPUといったチップになる。
現代の最先端チップには、数センチ四方の面積に数百億個ものトランジスタ(スイッチ)が詰め込まれている。TSMCの3nmプロセスの場合、トランジスタのサイズは文字通りナノメートル(10億分の1メートル)単位で、人間の髪の毛が約80,000nmだと考えると、その精度がどれだけ極端なのかがなんとなくイメージできる。
この製造プロセスの精巧さが、半導体産業への参入障壁をものすごく高くしている。設計するだけなら(Appleのようにファブレスで設計だけする会社)そこまで莫大な資本はいらないけど、製造するにはEUV(極端紫外線)という特殊な露光装置が必要で、それ一台で数百億円、工場全体では数兆円の投資が必要になる。しかも技術は長年の積み重ねで培われるもので、お金を積んですぐに追いつけるわけでもない。この構造がいまの「一極集中」につながっているんだと理解した。
AIブームで半導体需要が急増した理由
2022年末にChatGPTが登場して、AIブームが一気に加速したとき、需要が爆発したのはCPUじゃなくてGPUだった。なぜGPUなのかというと、AIの学習(トレーニング)は大量のデータに対して膨大な行列計算を繰り返す処理で、CPUは複雑な計算を順番にこなすのは得意だけど、単純な計算を並列に大量こなすのは苦手。GPUはもともとゲームのグラフィック処理(無数のピクセルを並列計算する)のために設計されていたから、AI学習の処理にぴったりハマった、ということらしい。
NVIDIAのH100というGPUはChatGPTのような大規模言語モデルの学習に不可欠なハードウェアになって、1枚の価格が日本円で500万円を超えても品薄で入手困難な状態が続いた。Microsoft、Google、Meta、Amazonといったテック企業が何万枚ものH100を買い占めた、という話が出てくるんだけど、「500万円が何万枚」という規模感がちょっと現実感を失うくらいの話だなと思う。
2025〜2026年にかけてはBlackwellアーキテクチャという次世代が登場したけど、需要が供給を上回る状況は変わっていない。AIの能力向上にはより大きなモデルが必要で、より大きなモデルにはより多くのGPUが必要、という正のフィードバックループがあって、これが当面止まる気配がないのが現状のようだ。
TSMC一極集中というリスクについて
調べていく中でけっこう驚いたのが、世界の最先端半導体の製造が一社・一地域にこれほど集中しているという事実だった。TSMCは台湾の会社で、世界の最先端半導体製造能力の90%以上を担っているとも言われている。
台湾海峡をめぐる地政学的な緊張は2023年以降も続いていて、「もし台湾有事が起きたら」という想定は、もはや軍事の専門家だけの話じゃなく、世界中の企業のリスク管理の中に織り込まれている。TSMCが止まったら、iPhone、MacBook、サーバー、自動車のコンピューター――あらゆるデジタル機器の製造が連鎖的に止まる。これが現実のリスクとして語られている状況はなかなか重い。
これを受けてアメリカは2022年に半導体法(CHIPS Act)を成立させて、自国内での半導体製造能力を取り戻すために巨額の補助金を投入している。TSMCはアリゾナ州に工場を建設中で、Intelもオハイオとオレゴンで工場を進めている。ただ、先端半導体の製造プロセスを一から構築するには10年単位の時間がかかるという話で、補助金だけで追いつくような話でもないみたい。
米中の半導体摩擦と日本の位置
アメリカが2022年以降、中国への先端半導体や製造装置の輸出規制を段階的に強化している背景には、「先端AIは軍事力に直結する」という認識があるらしい。最先端のGPUがあれば軍事用AIを強化できるから、それを中国に渡さない、という論理だ。NVIDIAは中国向けに規制に適合した別バージョンのチップを作ったりもしていたけど、それも順次規制の対象に加えられていった。
日本はこの構図の中で存在感を高めてきていて、熊本県にTSMCの工場(JASM)が2024年に稼働を開始した。政府が数千億円規模の補助金を拠出して誘致した。ただし、JASMが製造するのは12〜28nmプロセスで、最先端の3〜5nmではない。「日本の半導体が復活する」という文脈で語られることがあるけど、最先端製造ではなく中堅チップの内製化、という理解が正確だと思う。
一方で日本には半導体製造装置のメーカーが多数あって(東京エレクトロン、キヤノン、ニコンなど)、その分野での国際的なポジションは実は相当強いらしい。製造装置という観点では、中国も日本なしには完全な自立は難しいという状況がある。こういう「見えない強み」みたいなのはあまり知らなかったので、なるほどと思った。
価格はいつ下がるのか
「半導体の価格はいつ下がるの?」という問いへの正直な答えは「当面は下がりにくい」ということみたいだ。需要が増え続けている以上、価格は維持される。
需要が増え続ける理由は複数あって、AIの応用分野が増え続けていること(自動運転、ロボティクス、医療AI、その他)、電気自動車(EV)の普及で車に載る半導体の量が内燃機関車より格段に増えていること、などがある。供給側では、最先端ファブの建設と稼働には5年以上かかるし、EUV装置を製造できるのは世界でASML一社だけで生産台数も年間数十台程度という制約がある。
「来年になれば安くなるから待とう」という判断が当面通用しにくいのはそういう構造的な理由があるわけで、「半導体不足で新車の納期が数年待ちになった」という2021〜2023年の話も、こういう背景があってのことだったんだなと今になって理解できた気がする。スマホやPCの値段が上がり続けているのも、半導体コストの上昇が一因にある。
調べてみて感じたのは、半導体という一点をたどっていくと、米中の対立の理由、台湾の地政学的な重要性、電化製品の値段が上がる理由、日本の産業政策の方向性、全部がつながってくるということだった。難しい話に聞こえるけど、こういう構造を知っておくだけで、ニュースの読み方がちょっと変わるかもしれないな、と思っている。
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