学びについての宣言
AIに教えることで
理解を確かめる
学習サイトをつくりました。
AIに聞けば答えはすぐに返ってきます。
ただ、答えを受け取ることと分かることは、別のことでした。
この点から学習サイトを設計し直しました。その記録です。
教わることはすぐにできるようになりました。
AIによって学びの前提が変わりました。 分からないことはその場でAIに聞けます。数式の解き方も歴史の背景も英文の構造も、すぐに解説が返ってきます。教わることはこれまでになく手軽で速くなりました。
それ自体は良いことです。ただ、自分で何度も聞いているうちに、気になることが出てきました。受け取った答えをすぐに忘れてしまうのです。その場で分かったつもりでも数日後に聞かれるとあいまいになっていました。教わっただけでは記憶に残りにくいと感じました。
AIが身近にあると、分かったつもりになりやすくなります。情報に手が届きやすいほど、理解が浅いところで止まりがちです。これはAI時代の学習の落とし穴ではないかと考えました。
答えを受け取るだけだと、
学びは途中で止まります。
理解が深まったのは人に教えようとしたときでした。
自分の学びを振り返ると、身についた知識は誰かに説明しようとしたものばかりでした。友人に解き方を教えようとして口に出したところで、自分が分かっていない箇所に気づくのです。
説明すると自分の理解の細かさが分かります。頭の中でつながっているつもりでも、言葉にするとところどころ途切れています。その部分を埋めようと考え直したときに、知識が自分のものになります。覚えたことを定着させたのは、復習の量よりも、自分で説明するという作業でした。
ところが、AI学習サービスの多くは、AIがより上手に教える方向に進んでいました。そのぶん人は教わる側にとどまります。人がAIに教えて説明する場所は、見当たりませんでした。
そこで、人がAIに教える学習をつくることにしました。自分で知識を整理して言葉にし、AIに教えます。この過程を中心にした学習サイトが SciCirc です。
この考えは教育心理学の研究と重なっていました。
自分の経験をもとに設計を進めるなかで、同じことを説明する教育心理学の知見に出会いました。思いつきだと思っていたことが、以前から研究されている現象だと分かりました。
Learning by Teaching / プロテジェ効果
人に教えるつもりで学ぶと、記憶の定着も理解の深さも高まるという知見です。教える相手がいなくても、教える前提で情報に向き合うだけで、要点を整理し、自分の理解の足りない部分を探すようになります。受け身で学ぶときとは頭の使い方が変わります。
Bloom の 2 シグマ問題
教育学者のベンジャミン・ブルームは、1対1の個別指導を受けた学習者が、集団授業だけの学習者より平均で2σ高い成績を示したと報告しました。個別指導には大きな効果があります。
ただ、全員に人間の家庭教師をつけることは、現実にはできません。これが長年の課題でした。そこで次の仮説を立てました。AIが教わる相手にも教える相手にもなれるなら、この2σの差を、誰にでも届く形で埋められるのではないか。
AIを先生にするのではなく、
AIを生徒にする。
人が教え、AIが問い返す循環を保っています。
SciCircを設計するとき、最初にルールを決めました。AI同士には会話をさせません。複数のAIに教え合いや議論をさせることは、技術的にはできます。ただそうすると人は観客に戻ってしまいます。
そのため SciCirc では、人が教え、AIが受け止めて問い返し、人が理解を深める循環を保っています。説明するのはいつも人で、AIは理解が足りないところを問い返す役です。
名前もこの考えから付けました。Sci(科学・知)が Circ(循環)するという意味です。知識を人とAIのあいだで巡らせ、巡るたびに理解が深まる学びを目指しています。
入口は二つあり、どちらも最後は教えることにつながります。
SciCirc には学びの入口が二つあります。どちらから入っても、最後は学んだことを自分の言葉でAIに教えます。
- 時事から学ぶ
- 日々のニュースを題材に、複数の教科の視点から出来事を読み解きます。理解を組み立ててAIに説明します。
- 体系から学ぶ
- 数学や英語をはじめとする講座を順に進めます。レッスンで土台をつくり、最後に学んだ単元をAIに教えて定着を確かめます。
時事からでも講座からでも学び始められます。どちらの場合もゴールは、自分の言葉で説明することです。入口は二つ、出口は一つにしました。
SciCirc はまだ途中です。
ひとつの仮説を形にしたものです。
教える側に回ると人は本当に伸びるのか。この問いに私はまだ十分な答えを持っていません。SciCircを実際に使ってもらい、データを見ながら確かめます。
研究と経営の両方から、この問いに取り組みたいと考えています。学びの理論を深めつつ、多くの人が使えるサービスに育てます。人とAIのあいだで知識が巡る仕組みを、広く届けたいです。