遺伝情報の発現② 翻訳とタンパク質合成
mRNAに転写された情報は翻訳(translation)でアミノ酸配列に変換され、タンパク質が合成されます。生命機能の実体はタンパク質にあります。
基本知識
翻訳の場所はリボソーム(細胞質内のRNA-タンパク質複合体)です。
翻訳の流れ:
① mRNAがリボソームに結合。
② tRNA(運搬RNA)がアミノ酸を持ち、自分のアンチコドンでmRNAのコドンに対応する塩基配列に結合。
③ リボソーム上でアミノ酸どうしがペプチド結合でつながる。
④ コドンを次々と読んでいき、終止コドン(UAA・UAG・UGA)で翻訳終了。
コドンは3塩基で1組のアミノ酸を指定する暗号です。4種類の塩基の3つ組なので43=64通り。20種類のアミノ酸を指定し、複数のコドンが同じアミノ酸を指定する場合(縮重)があります。開始コドンはAUG(メチオニン)。
タンパク質はアミノ酸が多数つながった鎖(ポリペプチド)が立体的に折りたたまれた高分子。20種類のアミノ酸の組み合わせで無限のバリエーションを作り、酵素・抗体・構造材・受容体・ホルモンなど多様な機能を担います。
翻訳(mRNA→タンパク質の合成過程)
リボソーム(翻訳の場。rRNA+タンパク質からなる)
tRNA(運搬RNA)(アミノ酸を運ぶ。アンチコドンを持つ)
コドン(mRNA上の3塩基1組のアミノ酸指定暗号)
アンチコドン(tRNA上のコドンと相補的に結合する3塩基)
開始コドンAUG(メチオニンを指定。翻訳の開始位置)
終止コドン(UAA・UAG・UGA。翻訳を終了させる)
深掘り
遺伝暗号表はすべての生物でほぼ共通です(一部の例外を除き、ヒトも大腸菌もマツも同じコドンを使う)。これはすべての生物が共通祖先から進化したことの強力な証拠です。たとえば「GCU」「GCC」「GCA」「GCG」はどれもアラニンを指定します(縮重)。これにより、突然変異で塩基が1つ変わってもアミノ酸が変わらない場合(同義置換)が起こります。
翻訳の化学: アミノ酸とアミノ酸はリボソーム上でペプチド結合(-CO-NH-、アミドの一種)で連結されます。この反応はリボソーム上のrRNAがリボザイム(RNA酵素)として触媒します。タンパク質の触媒だと思われていた反応がRNAで触媒されることが分かり、RNA-ワールド説(生命の起源はRNAだった)の根拠となっています。
合成されたポリペプチドは折りたたまれて立体構造を取ります(フォールディング)。一次構造(アミノ酸配列)・二次構造(αヘリックス・βシート)・三次構造(立体構造)・四次構造(複数サブユニット)の4階層です。立体構造を間違えると機能を失い、時にアミロイド線維を形成してアルツハイマー病・プリオン病などの神経変性疾患の原因になります。
1遺伝子1酵素説(1941年、ビードルとテータム、アカパンカビ実験)は分子生物学初期の重要な仮説ですが、現代では1遺伝子1ポリペプチド説、さらに選択的スプライシングがあるため厳密ではないことが分かっています。
- 翻訳の場=リボソーム
- tRNAがアミノ酸を運ぶ
- コドン=mRNA上の3塩基暗号
- アンチコドン=tRNA上の対応3塩基
- 4^3=64通りのコドンが20種アミノ酸を指定(縮重)
- 開始コドンAUG=メチオニン
- 終止コドンUAA・UAG・UGA=翻訳終了
- 遺伝暗号表は全生物でほぼ共通
注意点
① コドン(mRNA上)とアンチコドン(tRNA上)を混同しない。両者は相補的に結合。② コドンは3塩基で1アミノ酸を指定。43=64通りで20種類のアミノ酸を指定(縮重あり)。③ 開始コドンAUG=メチオニン、終止コドンUAA・UAG・UGA=アミノ酸を指定しない。終止コドンに対応するtRNAは存在しない。④ 翻訳(mRNA→タンパク質)・転写(DNA→mRNA)・複製(DNA→DNA)の3つを区別。
練習
- 翻訳の場となる細胞構造を何というか。
- 1組のアミノ酸を指定するmRNA上の塩基配列を何というか。
- アミノ酸どうしを連結する化学結合を何というか。