ベンゼンと芳香族性
ベンゼン C6H6 は環状の6炭素に6個のπ電子が非局在化した、特異な安定性を示す芳香族化合物の代表です。
基本知識
1825年ファラデーがコールタールから単離、1865年ケクレが環状構造を提唱(夢でヘビが自分の尾を噛む光景を見たという逸話)。
構造: 正六角形、C-C結合長は全て139 pm(単結合154 pmと二重結合133 pmの中間)、sp2混成炭素、π電子は環全体に非局在化。
ヒュッケル則: 環状π電子系で(4n+2)個のπ電子(n=0,1,2..., 2, 6, 10...)を持つと特に安定。ベンゼンはn=1で6個。
主な反応は付加ではなく置換反応(芳香族性を保つため):
① ハロゲン化: C6H6 + Cl2 → C6H5Cl + HCl(FeCl3触媒)
② ニトロ化: C6H6 + HNO3 → C6H5NO2 + H2O(濃H2SO4触媒)
③ スルホン化: C6H6 + H2SO4 → C6H5SO3H + H2O(濃硫酸)
④ フリーデル・クラフツ反応: AlCl3触媒でアルキル化(R-Cl)・アシル化(RCO-Cl)。
特殊条件で付加反応も: H2(Ni触媒、高温高圧)→シクロヘキサン、Cl2(紫外線)→ベンゼンヘキサクロリド(殺虫剤BHC)、O3→開環。
ベンゼン C6H6(無色芳香性液体、発がん性、特異臭)
芳香族性(環状・平面・(4n+2)π電子、ヒュッケル則)
共鳴(レゾナンス)(π電子の非局在化で安定化)
求電子置換反応(H+と他陽イオン種が置換、ベンゼンの典型反応)
フリーデル・クラフツ反応(AlCl3触媒、ベンゼンの炭化水素化)
配向性(既存置換基によりオルト/パラまたはメタへの位置選択)
深掘り (原理・応用)
配向性: ベンゼンに既に置換基が1つある状態で2つ目の置換基が入る位置は、既存の置換基によって決まります。
・オルト/パラ配向性(電子供与基): -OH, -NH2, -OR, -R(アルキル), -X(ハロゲン)。
・メタ配向性(電子求引基): -NO2, -COOH, -SO3H, -CHO, -CN, -CF3。
反応中間体カルボカチオンの安定性で説明: オルト/パラ攻撃ではカルボカチオン正電荷が置換基を持つCに局在化可能で、電子供与基だと安定化、電子求引基だと不安定化、その結果メタへ。
ベンゼンの発がん性: 急性骨髄性白血病の原因、IARC Group 1。かつてはガソリンに高比率添加、ドライクリーニング溶剤、有機合成試薬として広く使われましたが、現在は規制厳しい。
多環芳香族炭化水素(PAH): ナフタレン(防虫剤)・アントラセン(染料)・ベンゾピレン(タバコ煙・焼け焦げに含む発がん物質)など。
- ベンゼンはC6H6、正六角形、共鳴で安定
- ヒュッケル則(4n+2)π電子で芳香族
- 付加でなく置換反応がメイン
- 4つの代表反応: ハロゲン化・ニトロ化・スルホン化・FC反応
- 配向性: -OH/-NH2はオルト/パラ、-NO2/-COOHはメタ
- ベンゼンは発がん性物質(白血病原因)
- 多環PAHにも発がん性のものが多い
注意点 (混同しやすい・頻出ミス)
① ベンゼンは付加反応より置換反応(芳香族性を保つ方が安定)。② ハロゲンは-I効果(電子求引)だがオルト/パラ配向(LP電子による+M効果が勝つ)、例外的だが頻出。③ FC反応はFriedel-Crafts、AlCl3触媒。アシル化はカルボカチオン安定化のためアルキル化より制御しやすい。④ 多置換では電子供与基が反応性を上げ、電子求引基が下げる(ニトロベンゼンは反応性低い)。
練習
- ベンゼンが置換反応を好み付加反応を嫌う理由を、共鳴・芳香族性の観点から説明せよ。
- ベンゼンのニトロ化反応式を書き、ニトロ化剤(混酸)中で生じる活性種を答えよ。
- トルエンの2回目のニトロ化はどの位置に起こりやすいか、配向性の観点から答えよ。