フェノール類
ベンゼン環にヒドロキシ基-OHが直接ついた化合物をフェノール類といい、フェノールC6H5OHが代表。アルコールと似て非なる性質を持ちます。
基本知識
フェノールの性質:
① 弱酸性(Ka≈10-10、アルコールより酸性、炭酸より弱酸): C6H5OH + NaOH → C6H5ONa + H2O。
② 炭酸より弱酸なので、ナトリウムフェノキシドにCO2を通すとフェノールが遊離 C6H5ONa + CO2 + H2O → C6H5OH + NaHCO3。
③ 塩化鉄(III)反応: フェノール+FeCl3 → 紫色〜青紫色呈色(検出反応、フェノール性-OH全般)。
④ ハロゲン化反応: 臭素水を加えるとオルト・パラ全置換した2,4,6-トリブロモフェノール(白沈)を生成。-OHの強い活性化能による。
⑤ カップリング反応: ジアゾニウム塩+フェノキシド→アゾ化合物(染料)。
フェノールの工業製法: ①クメン法(現代主流): ベンゼン+プロピレン→クメン→空気酸化→クメンヒドロペルオキシド→分解→フェノール+アセトン(両者とも有用、原子効率良し)。②ベンゼンスルホン酸のアルカリ融解、③クロロベンゼン+NaOH高温(古い方法)。
主なフェノール類: フェノール、o-/m-/p-クレゾール(メチルフェノール)、ヒドロキノン(1,4-ジヒドロキシベンゼン、写真現像)、レゾルシン(1,3-ジヒドロキシベンゼン)、カテコール(1,2-)、ピクリン酸(2,4,6-トリニトロフェノール、爆薬・染料)、ナフトール(ナフタレン+OH)、サリチル酸(o-ヒドロキシ安息香酸、アスピリン原料)。
フェノール C6H5OH(弱酸性、防腐剤・消毒剤、毒性高い)
フェノキシドイオン(C6H5O-、共鳴で安定化)
クメン法(ベンゼン+プロピレン→フェノール+アセトン、原子効率良)
FeCl3呈色反応(フェノール性-OHで青紫色、検出反応)
サリチル酸(o-HOC6H4COOH、アスピリン・サリチル酸メチルの原料)
フェノール樹脂(ベークライト)(フェノール+ホルムアルデヒド、最初の人工樹脂)
深掘り (原理・応用)
フェノールがアルコールより酸性な理由: フェノキシドイオンC6H5O-の負電荷がベンゼン環のπ系に共鳴で非局在化し安定化される(オルト・パラ位に共鳴構造で電荷が分散)。アルコキシドR-O-にはこの安定化がないため。
サリチル酸の応用: アセチル化→アセチルサリチル酸(アスピリン) (世界最古の解熱鎮痛薬、1899年バイエル社)。エステル化→サリチル酸メチル(湿布薬、サロメチール)。両方とも反応点が異なる(アスピリンは-OHのアセチル化、サリチル酸メチルは-COOHのメチルエステル化)。
フェノール樹脂(ベークライト): 1907年ベークランドが合成した最初の完全合成樹脂。フェノール+ホルムアルデヒドで3次元網目構造を作り、硬く電気絶縁性に優れる。電話機ボディ、灰皿、初期プラスチック製品の代名詞。
毒性: フェノールは皮膚刺激・タンパク変性で消毒剤(リスター法、近代外科の出発点)に使われたが、毒性が強く現在は使用控えめ。ピクリン酸(2,4,6-トリニトロフェノール)は黄色染料・爆薬として使われましたが、不安定で爆発事故が多発、現在は限定使用。
- フェノール=ベンゼン環+-OH直結
- 弱酸性(NaOHと反応)、炭酸より弱酸
- FeCl3で紫色呈色(検出反応)
- 臭素水で2,4,6-トリブロモフェノール白沈
- 工業製法はクメン法(アセトン副生)
- サリチル酸→アスピリン(消炎鎮痛)・サリチル酸メチル(湿布)
- フェノール樹脂=最初の人工プラスチック
注意点 (混同しやすい・頻出ミス)
① フェノールとアルコールはどちらもR-OHだが、フェノールは弱酸性でNaOHと反応(アルコールは反応しない)。② 酸の強さ: カルボン酸(R-COOH)>炭酸(H2CO3)>フェノール(C6H5OH)>水≫アルコール。NaHCO3水でカルボン酸のみCO2遊離、フェノールはNaHCO3と反応しない。③ ベンジルアルコールC6H5-CH2-OHは-OHが環直結でないので普通のアルコール(FeCl3陰性、酸化でアルデヒド/酸)。
練習
- フェノールとエタノールの酸の強さの違いを、共鳴構造の観点から説明せよ。
- フェノールに臭素水を加えたときの反応式を書け。
- クメン法によるフェノール製造の利点を、原子効率と副生成物の観点から述べよ。