生命活動とエネルギー ATPの役割
生物が生きるためにはエネルギーが必要です。すべての生物はATP(アデノシン三リン酸)を共通のエネルギー通貨として用います。
基本知識
ATPはアデニン(塩基)+リボース(糖)+3個のリン酸基からなる化合物です。リン酸どうしの結合(高エネルギーリン酸結合)は加水分解されると約30.5 kJ/molのエネルギーを放出します。
ATP ⇄ ADP + リン酸 + エネルギー
(ATP=アデノシン三リン酸、ADP=アデノシン二リン酸)
この反応は可逆で、エネルギーを放出する異化反応(呼吸など)で得たエネルギーでATPが合成され、エネルギーを使う同化反応(筋収縮・能動輸送・物質合成)でATPが分解されます。
生物は1秒あたり大量のATPを消費・再生しています。ヒト成人では1日に体重とほぼ同じ量(40〜70 kg)のATPが回転すると見積もられます。常に新しいATPが作られて消費されている動的平衡です。
ATP(アデノシン三リン酸。共通エネルギー通貨)
ADP(アデノシン二リン酸。ATPから1リン酸が外れた形)
高エネルギーリン酸結合(リン酸どうしの結合。加水分解で大エネルギー放出)
代謝(生体内で起こる化学反応の総称)
同化(アナボリズム)(単純な物質から複雑な物質を合成・吸エネルギー反応)
異化(カタボリズム)(複雑な物質を分解する・発エネルギー反応)
酵素(生体触媒。活性化エネルギーを下げて反応を促進するタンパク質)
深掘り
なぜATPはエネルギー通貨なのか。化学的には、ATPの3つのリン酸基は負電荷を多く帯び、互いに強く反発しています。加水分解で1個のリン酸基が外れると、この反発が解消されてエネルギーが安定化方向に放出されます。さらに加水分解産物(ADP・リン酸)は共鳴安定化も得るため、反応のギブズ自由エネルギー変化ΔGは大きな負の値(約-30.5 kJ/mol)となります。
もう一つ重要なのが酵素です。生体内の反応はそのままでは活性化エネルギーが高すぎて常温では進まないため、酵素が反応経路を変えてエネルギー障壁を下げます。酵素はタンパク質(一部はRNA)で、特定の基質に特異的に結合する活性部位をもちます。活性は温度・pHに依存し、ヒトの酵素では体温(37℃)前後・中性付近のpHで最適活性を示します。
同化と異化はセットで動作します。光合成(同化)で作った有機物を呼吸(異化)で分解してATPを得、ATPを使ってまたタンパク質や核酸を作る(同化)。これが代謝の循環です。
- ATP=アデニン+リボース+3リン酸
- ATP⇄ADP+リン酸+エネルギーの可逆反応
- 加水分解で約30.5 kJ/molのエネルギー放出
- 同化=吸熱・物質合成、異化=発熱・物質分解
- ヒト1日あたりATP回転量=体重相当(数十kg)
- 酵素=タンパク質、活性化エネルギーを下げる
- 酵素は基質特異性・温度pH依存性をもつ
注意点
① ATP(三リン酸)とADP(二リン酸)を区別。ATPからリン酸1個が外れるとADPになる。② 同化(物質合成・エネルギー吸収)と異化(物質分解・エネルギー放出)を逆に覚えない。「合成=同じ方向に組み上げる=同化」と関連付ける。③ 酵素はタンパク質だが、すべてのタンパク質が酵素ではない。④ ATPの「高エネルギーリン酸結合」とは、結合自体に大きなエネルギーが蓄えられているわけではなく、加水分解で放出されるエネルギーが大きいという意味。
練習
- ATPを構成する塩基・糖・リン酸の数を答えなさい。
- 物質を分解してエネルギーを取り出す代謝経路を何というか。
- 酵素が反応を促進する仕組みを「活性化エネルギー」という用語を使って説明しなさい。