遺伝情報の発現① 転写 (DNA→RNA)
DNAに書かれた情報は、まずRNAに書き写されます。この過程を転写(transcription)と呼びます。タンパク質合成の前半段階です。
基本知識
RNA(リボ核酸)はDNAに似ていますが、いくつかの違いがあります:
① 糖がリボース(DNAはデオキシリボース。2'炭素にOHあり)。
② 塩基U(ウラシル)がTの代わりに使われる。
③ ふつう1本鎖(DNAは2本鎖)。
転写の流れ:
① 遺伝子領域でDNAが部分的に開く。
② RNAポリメラーゼがDNAのセンス鎖の逆側(アンチセンス鎖)を鋳型として、相補的なRNAヌクレオチドをつなげる。
③ 1本のRNA鎖(mRNA・伝令RNA)ができる。
真核生物では、できたばかりのmRNAにはイントロン(タンパク質情報を含まない領域)とエキソン(情報を含む領域)があり、スプライシングでイントロンが除去されて成熟mRNAになります。原核生物では基本的にイントロンはありません。
RNA(リボ核酸。糖=リボース、塩基=A・U・G・C、1本鎖)
転写(DNAの塩基配列を鋳型にしてRNAを合成する過程)
mRNA(伝令RNA)(タンパク質のアミノ酸配列情報を運ぶRNA)
RNAポリメラーゼ(RNAを合成する酵素)
イントロン・エキソン(真核生物の遺伝子内の非翻訳領域・翻訳領域)
スプライシング(イントロンを切り取りエキソンをつなぐ過程)
セントラルドグマ(DNA→RNA→タンパク質という情報の流れ)
深掘り
転写と複製の違い: 複製はDNA→DNA(同じ2本鎖を作る)、転写はDNA→RNA(1本鎖のRNAを作る)。複製で使われるのはDNAポリメラーゼ、転写で使われるのはRNAポリメラーゼ。両者はよく似た酵素ファミリーですが、機能と基質(取り込むヌクレオチド)が異なります。
転写の方向: RNAポリメラーゼは5'→3'方向にRNAを合成し、鋳型となるDNAは3'→5'方向に読まれます。RNAの配列は、鋳型鎖の塩基と相補的(A↔U、G↔C)になります。
スプライシングの発見(1977年、Roberts & Sharp)はノーベル賞(1993)につながった重要な成果です。同じ遺伝子から異なるパターンでスプライシングすれば、異なるタンパク質ができる選択的スプライシングも起こります。ヒトの遺伝子数は約2万個ですが、選択的スプライシングなどで実際のタンパク質種類は10万種以上と推定されており、複雑性の源になっています。
セントラルドグマ(中心原理)は1958年クリックが提唱した「DNA→RNA→タンパク質」の情報の流れです。一部例外(レトロウイルスのRNA→DNA逆転写など)はありますが、生命情報の基本的な流れはこの方向です。
- RNA=糖がリボース、塩基はA・U・G・C、1本鎖
- 転写=DNA→RNA、RNAポリメラーゼが触媒
- mRNA=タンパク質情報を運ぶ伝令RNA
- イントロン(非翻訳)とエキソン(翻訳)
- スプライシング=イントロン除去・エキソン連結
- 選択的スプライシング=1遺伝子から多種タンパク質
- セントラルドグマ=DNA→RNA→タンパク質
注意点
① DNA(2本鎖・T)とRNA(1本鎖・U)の違いを明確に。② 転写(DNA→RNA)と翻訳(RNA→タンパク質)を逆にしない。「転写」は写し取る、「翻訳」は別言語へ変換、と覚える。③ イントロン(非翻訳・切り取られる)とエキソン(翻訳・残る)を混同しない。④ センス鎖(コード鎖)とアンチセンス鎖(鋳型鎖): 鋳型として使われるのはアンチセンス鎖。mRNAの配列はセンス鎖と同じ(TがUに変わる以外)。
練習
- RNAがDNAと異なる塩基を1つ答えなさい。
- 真核生物の遺伝子内で、タンパク質情報を含まないが転写後に切り取られる領域を何というか。
- 「DNA→RNA→タンパク質」という遺伝情報の流れを総称して何というか。