高校発展 / 有機化学・IUPAC命名法と構造決定 3 / 6

構造異性体と立体異性体

構造異性体と立体異性体

同じ分子式でも異なる構造を持つ化合物を異性体といい、有機化学の中心概念です。系統的に分類して理解しましょう。

基本知識

異性体の大分類:
構造異性体(constitutional isomer): 原子の結合順序が違う
 ・連鎖異性体: 炭素骨格が違う(n-ブタンとイソブタン)
 ・位置異性体: 官能基の位置が違う(1-プロパノールと2-プロパノール)
 ・官能基異性体: 官能基自体が違う(エタノールC2H5OHとジメチルエーテルCH3OCH3)
立体異性体(stereoisomer): 結合順序は同じだが原子の3次元配置が違う
 ・シス・トランス異性体(幾何異性体): C=C二重結合や環で生じる(マレイン酸/フマル酸)
 ・鏡像異性体(エナンチオマー、光学異性体): 鏡像関係、キラル中心(不斉炭素)を持つ
 ・ジアステレオマー: 鏡像関係でない立体異性体(複数のキラル中心)
 ・配座異性体: 単結合周りの回転による(イス/舟形シクロヘキサン等)
キラリティ: 自身の鏡像と重ね合わせられない性質。多くの天然アミノ酸はL体、糖はD体。

📘 重要概念
構造異性体(結合順序の違い)
シス・トランス異性体(二重結合まわりの配置、E/Z表記)
不斉炭素原子(C*、4つの異なる原子団が結合した炭素)
鏡像異性体(エナンチオマー)(光学活性、旋光性で識別)
ラセミ体(等量混合物、旋光性なし、薬効も異なる場合)
R/S表記(CIP則による絶対立体配置の表記)

深掘り (原理・応用)

サリドマイド事件(1960年代)は立体異性の重要性を世界に知らしめました。サリドマイドにはR体とS体があり、R体は鎮静作用、S体は催奇形性。ラセミ体として販売され、多くの胎児に四肢欠損が生じた悲劇です。これ以降、医薬品開発では不斉合成(片方の鏡像体だけを選択的に作る)が必須となりました。野依良治のノーベル賞(2001年)はこの不斉触媒の業績。
シス-プラチン[PtCl2(NH3)2]は前述のとおりシス異性体のみ抗がん作用を示します。
天然物のD-グルコースは栄養価がありますが、その鏡像L-グルコースは生体内代謝されず甘味のみ感じる(理論的人工甘味料候補)。匂い分子ではR-カルボンはスペアミント香、S-カルボンはキャラウェイ香で全く違うのも有名な例です。

💡 ポイント
  • 異性体は構造異性体と立体異性体に大別
  • 構造異性体=連鎖・位置・官能基の3種
  • 幾何異性体(シス・トランス)=C=Cまたは環
  • 不斉炭素=4つ全て異なる原子団
  • 鏡像異性体=光学的に逆向きに回転(旋光性±)
  • n個の不斉炭素で立体異性体は最大2n
  • サリドマイド事件で立体化学の重要性が認識

注意点 (混同しやすい・頻出ミス)

シス・トランス異性体は二重結合の両側にそれぞれ異なる基がないと生じない(CH2=CHClは生じない、CHCl=CHClは生じる)。② 不斉炭素は4つの結合相手が全て異なる必要。-CH3が2つあれば不斉炭素ではない。③ メソ化合物: 不斉炭素を複数持つが分子全体として鏡像対称で光学活性を示さない(酒石酸のメソ体)。④ シス=Z、トランス=Eは基本的だが、置換基の優先順位の都合で逆になる場合も(CIP則を厳密に適用)。

練習

  1. C4H10の構造異性体を全て描き、命名せよ。
  2. 2-ブテンCH3-CH=CH-CH3のシス体・トランス体を描き、沸点が高いのはどちらか述べよ。
  3. 乳酸CH3-CH(OH)-COOHに不斉炭素があるか確認し、立体異性体の数を答えよ。
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