慣性力と非慣性系
加速度運動する乗り物の中では慣性力という見かけの力が働きます。非慣性系での力のつり合い・運動方程式を習得します。
基本知識
慣性系: 等速直線運動(または静止)の基準系。ニュートンの法則がそのまま成立する。
非慣性系: 加速度 a₀ で動く系。この系の中から見ると、全ての物体に質量 × (−a₀) の慣性力が働くように見える。慣性力 = −ma₀(a₀ は系の加速度ベクトル)
加速するエレベーターの中の体重計の示す値:
・上向きに加速 a: N = m(g + a)(見かけ上重くなる)
・下向きに加速 a: N = m(g − a)(見かけ上軽くなる)
・自由落下(a = g 下向き): N = 0(無重力状態)
電車が加速するとき車内の人から見ると後方に慣性力 ma が働く。この慣性力を使ってつり合いの式を立てることができる(回転系での遠心力も慣性力の一種)。
慣性力の大きさ: ma₀(m: 注目物体の質量、a₀: 系の加速度の大きさ)
慣性力の向き: 系の加速度と逆向き
エレベーター上昇加速: 見かけの重力 = m(g + a)
自由落下: 見かけの重力 = 0(完全無重力)
慣性力の特性: 見かけの力(実際には存在しない)
深掘り(背景・意義)
慣性力は見かけの力であり、物理的な原因がない点で重力・弾性力・摩擦力などの実在する力と本質的に異なります。しかし非慣性系内の観測者にとっては「感じる力」として現れ、非慣性系でつり合いや運動方程式を解く際に使うと便利です。
アインシュタインの等価原理は「重力と慣性力は局所的に区別できない」という原理で、一般相対性理論の出発点です。宇宙空間の加速するロケット内では重力と同じ感覚が得られます。
非慣性系と慣性系はどちらで解いても物理的な答えは同じです。慣性系では F = ma(実在の力のみ)、非慣性系では実在の力 + 慣性力 = 0(つり合い)または = ma'(相対加速度)として解きます。
遠心力は回転系の慣性力で、大きさ mω²r、方向は回転軸から外向き。これも非慣性系(回転系)でのみ使います。
- 慣性力 = ma₀(系の加速度と逆向き)
- 慣性系:実在の力のみで F = ma
- 非慣性系:実在の力 + 慣性力でつり合い
- 上昇加速エレベーター:見かけ体重増加
- 自由落下:無重力状態(N = 0)
- 遠心力は回転系の慣性力
- どちらの系で解いても答えは同じ
注意点(混同しやすい)
① 慣性系と非慣性系を混在させない。どちらで解くか最初に宣言する。② 慣性力は実在しない。慣性系の F = ma に慣性力を足してはいけない。③ 自由落下では N = 0(無重力)だが、重力は依然 mg 働いている(重力がなくなるのではない)。④ エレベーターが「等速運動」なら慣性力はゼロ(加速度 = 0)。
練習
- 質量 60 kg の人が上向きに 2.0 m/s² で加速するエレベーターに乗っている。体重計の示す値を求めよ(g = 10 m/s²)。
- 加速度 a₀ の電車内で、天井から吊るした振り子が傾く角度 θ を求めよ。
- 慣性系と非慣性系、どちらで解くべきかを決める際の判断基準を述べよ。