社会行動と縄張り
動物が集団を形成して協調・競合する行動を社会行動といいます。縄張り(テリトリー)や優位順位(ドミナンス・ヒエラルキー)、利他行動と血縁選択など、社会行動の進化的論理を理解することは行動生態学の核心です。
基本知識
縄張り(テリトリー): 個体または集団が特定の空間を独占的に使用・防衛する行動。資源(食物・配偶者・巣場所)の確保のために形成される。縄張りの防衛には鳴き声・匂いマーキング・ディスプレイなどの誇示行動が使われ、直接的な戦闘が回避される。縄張りが有利に働くのは防衛コスト < 資源利益の場合。
優位順位(ドミナンス・ヒエラルキー): 集団内の個体が安定した順位関係をもつ。上位個体は資源優先的にアクセスできる。例: チンパンジーの社会・ニワトリの「つつき順位」。優位順位によって個体間の直接競争が減り群れのコストが下がる。
利他行動と血縁選択説(ハミルトン): 自分の適応度を下げて他個体の適応度を上げる行動。包括適応度= 直接適応度(自己の繁殖) + 間接適応度(血縁者の繁殖への貢献)。血縁度(r) × 受益者の利益(B) > コスト(C) が成立するとき利他行動は進化できる(ハミルトンの規則: rB > C)。例: ミーアキャットの見張り行動・ミツバチの働きバチの繁殖放棄。
互恵的利他主義(トリヴァース): 血縁関係がなくとも将来的な見返りを期待して利他行動が成立する。条件: 長寿・個体識別・繰り返し出会い。「囚人のジレンマ」モデルで解析される。例: チスイコウモリの血液分与。
ハミルトンの血縁選択説を使って、働きバチが自分では繁殖せずに女王バチを助ける行動が進化できる理由を説明しなさい。
解答: ハチ目(膜翅目)は半倍数性の性決定をもつため、働きバチと女王バチ(姉妹間)の血縁度 r = 0.75 と非常に高い。自分の子どもとの血縁度 r = 0.5 より高いため、自ら繁殖するより女王を助けて姉妹を増やすほうが包括適応度(rB)が大きくなる。ハミルトンの規則(rB > C)を満たすため、繁殖放棄の利他行動が自然選択によって進化できる。
- 縄張り=資源確保のため空間を防衛・鳴き声・匂いマーク
- 優位順位=安定した順位関係で直接競争を減らす
- 包括適応度=直接適応度+間接適応度
- ハミルトンの規則: rB > C で利他行動が進化
- 血縁度: 親子・兄弟=0.5・ハチ目姉妹=0.75
- 互恵的利他主義=将来の見返りを期待した利他行動
- 縄張りのコスト-利益分析が防衛の有無を決める
注意点
① 包括適応度の計算では血縁度の正確な理解が重要。② 互恵的利他主義は血縁関係を必要としないが、個体識別と繰り返し交流が条件。③ 縄張りの防衛行動は、資源量が少ない(分散している)か多すぎる場合は成立しにくい。
練習
- 縄張り形成の適応的意義を述べ、直接的な戦闘が避けられる理由を説明しなさい。
- ハミルトンの規則(rB > C)を使って、兄弟に対する利他行動が進化するための条件を説明しなさい。
- 互恵的利他主義が成立するための3つの条件を答えなさい。