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『THE FINALS』の建物破壊はなぜ同期できる? サーバー側物理の仕組みを調べた

『THE FINALS』の建物破壊はなぜ同期できる? サーバー側物理の仕組みを調べた

『THE FINALS』で建物を崩すと、床の穴も落ちた瓦礫も、試合にいる全員の戦術を変えます。壁を抜いて射線を作るだけではありません。キャッシュアウト端末を床ごと落としたり、崩れた建物が別の建物を壊したりします。これだけ動く世界をオンライン対戦で共有できるのは、なぜなのでしょうか。

調べると、このゲームではプレイヤー移動、環境破壊、ゲームに影響する物体の動きを、サーバー側の共通世界として扱うことが設計の中心にありました。各プレイヤーのPCやゲーム機は不要になるわけではありません。画面を描き、音を鳴らし、操作感を保つための予測をしながら、サーバーが決めた結果を表示します。

THE FINALSのサーバー側シミュレーション概念図
公開された開発者説明をもとにした概念図。実装の全詳細を示すものではありません。

結論:サーバーが「どの世界が正しいか」を決める

Embark Studiosのクリエイティブディレクター、Gustav Tilleby氏は2022年のインタビューで、サーバー側の移動と破壊を本作の主要な技術革新として挙げています。移動床や建物全体の崩壊を、プレイヤーが走り回る最中にも成立させるためです。

2023年の開発者ポッドキャストでは、技術アニメーターのArvid氏が、さらに具体的に説明しています。

  • 破壊に関わる物理はサーバーへ集める
  • 移動床や瓦礫の正しい位置・姿勢(transform)をクライアントへ送る
  • プレイヤー移動では予測を最小限にし、サーバーの状態を正とする
  • 操作が遅く感じないよう、クライアント側には薄い予測層を置く

要するに、各プレイヤーが別々に建物の倒れ方を決めるのではなく、サーバーが一つの崩壊結果を計算し、その結果を全員へ配る構成です。

なぜ普通の「壊れる演出」より難しいのか

壁が壊れる映像を再生するだけなら、クライアント側の演出で済ませられます。しかし『THE FINALS』では、破壊後の形そのものがゲームルールに参加します。

  • 穴が新しい通路や射線になる
  • 床を失ったプレイヤーや目標物が落下する
  • 瓦礫が移動や射撃を妨げる
  • 倒れた構造物が別の構造物を壊す

ここでプレイヤーAの端末では床が残り、プレイヤーBの端末では床が抜けている、といった食い違いが起きると対戦が成立しません。破壊、物体、プレイヤー位置は互いに影響するため、同じ基準で処理する必要があります。サーバーを「唯一の正解」にする理由はここにあります。

1回の操作が全員の画面に届くまで

  1. 入力:プレイヤーが移動、射撃、爆発物の使用などを行います。
  2. サーバー計算:サーバーが移動、衝突、破壊、物体の状態を進めます。
  3. 状態の配信:移動床や瓦礫などの正しい位置を各クライアントへ送ります。
  4. クライアント表示:各PC・ゲーム機が受け取った状態から映像、光、粒子、音、UIを描きます。
  5. 補間・予測:通信の往復時間を目立たせないため、表示を滑らかにつなぎます。ただし最終的な正解はサーバーです。

これは映像を丸ごと配信するクラウドゲームとは違います。開発者も、入力をサーバーへ送り動画を返す方式は遅延のため現実的ではないと説明しています。サーバーが担うのは主にゲーム世界の状態で、最終的な描画は手元の機器が行います。

代償はサーバー負荷と遅延への敏感さ

この方式には大きな利点がある一方、無料ではありません。サーバーは銃撃の判定だけでなく、変化し続ける地形と多数の物体を処理し、その結果を複数のプレイヤーへ届ける必要があります。通信が遅れれば、移動の修正や瓦礫の位置ずれとして見えやすくなります。

開発者ポッドキャストで「予測を薄くする」と説明しているのは、このトレードオフへの答えです。クライアントの予測を増やすと操作は即座に見えますが、サーバーとの食い違いも増えます。予測を減らすと同期は堅くなりますが、往復遅延を隠す工夫が必要です。『THE FINALS』は、アニメーションやカメラなどを使いながら、この間を調整しています。

すべてを試合中に「砕いている」わけではない

サーバー側で物理を扱うからといって、完成した建物を毎回ゼロから細かく割っているわけではありません。Embark Studiosの技術アーティストが公開したSideFXの記事によると、破壊可能な建物は事前にHoudiniで破片へ分割されています。リアルタイムの粉砕は負荷が高く、結果も予測しにくいためです。

さらに、弾丸、爆発、プレイヤー移動に必要なコリジョン(当たり判定形状)も自動生成し、破片の形を保ちながら可能な範囲でまとめています。つまり、開発時に「壊れ方の材料」を準備し、試合中はその材料の状態を物理シミュレーションする設計です。サーバーの仕事量を抑える工夫は、ゲームを起動する前の制作工程から始まっています。

破壊は発売後も作り替えられている

公式アップデート7.3.0では、建物が自重でより自然に崩れ、倒れた建物がほかの構造物へ損傷を与える改善が説明されました。Season 8では「Smooth Destruction」により、落下する吊り構造物が下の環境を破壊するようになっています。

Season 8のインスタントリプレイ機能についても、開発チームは、プレイヤー移動、環境破壊、物体同士の作用を高いデータ精度で再構成する必要があったと説明しています。この記述からも、一瞬の爆発映像ではなく、複数の状態が結びついた「出来事」として破壊を扱っていることが分かります。

公開情報からは分からないこと

今回確認した公開資料だけでは、サーバーの正確な更新頻度(tick rate)、1試合あたりのCPU使用量、送受信するデータ量、どの小物まで同じ精度で同期するかは分かりません。また「クライアントで物理を動かさない」という説明は、ゲーム結果を決める動的物体の文脈です。画面上だけの粒子や細かな視覚効果までサーバーが計算している、と解釈するのは行き過ぎです。

それでも設計の骨格は明確です。壊れる世界を単なる演出にせず、全員が共有するルールにする。そのために、移動と破壊の正解をサーバーへ集めた。これが『THE FINALS』の独特な遊びを支える技術です。

参考資料

調査日:2026年9月16日。記事中の構成図と処理手順は、上記の公開資料を組み合わせて整理した概念説明です。

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